PwCあらた有限責任監査法人を執行役副代表 久保田正崇氏が語る

企業インタビュー

今回はPwCあらた有限責任監査法人(以下PwCあらた)執行役副代表である久保田正崇様にお話を伺ってきました。

久保田正崇様のご経歴

1997年青山監査法人入所。2002年から2004年までPwC米国シカゴ事務所に駐在し、現地に進出している日系企業に対する監査、ならびに会計・内部統制・コンプライアンスにかかわるアドバイザリー業務を経験。帰国後、2006年にあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に入所。大手通信会社、電気機器メーカー、半導体メーカー、オンラインゲーム会社など、多数のテクノロジー関連事業会社に対する、日本・米国・IFRSでの監査、会計・内部統制・コンプライアンスにかかわるアドバイザリー業務に従事するとともに、IT企業の東京証券取引所IPO支援、J-SOX導入、IFRS導入をはじめとする各種アドバイザリー業務を主導。2020年7月に執行役副代表(アシュアランスリーダー/アシュアランス変革担当)に就任。企画管理本部長、AI監査研究所副所長を兼任。

グローバル視点を持った専門家が社会の信頼を築いていく

PwCあらたについて教えてください。

監査法人は監査対象になった情報に対して信頼を付与するという業務を担っていますが、PwCあらたは、信頼が求められるところに信頼を提供できる存在、かつグローバルに通用するサービスを提供できる存在となることを目指しています。監査業務でいえば、日本でしか通用しない監査ではなく、世界中で通用する監査をまずは実現したいと思っています。
一方で監査のみならず、私たちはブローダーアシュアランスサービス(以下、BAS)と呼称しているアドバイザリー業務にも力を入れています。監査は構築されたものに対して保証する業務ですが、それより前の段階の、構築されていないものを作り上げるサポートも重要視しているためです。
それらを実現するためにPwCあらたで大事にしているカルチャーの一つが「Speak Up」です。監査において不正会計を見抜けないケースでは、その背景に現場の声が届かないというカルチャーがあると考えられます。そこで、私たちはどんな些細なことであっても誰もが自由に発言できる「Speak Up」の重要性を認識してきました。このカルチャーは現在しっかりと社内に浸透していると自負していますし、今後も大事にしていきたいと思っています。

現在の組織体制は?

上記のような支援を行うにあたり、現在の組織体系について教えていただけますか。

全体では3,000名強の組織となっており、そのうち監査をメインとしているのが1,500名強、BASが1,000名強、両方に従事しているのが500名程度となっています。ただし過半数のメンバーは監査・BAS両方の経験を積みながら仕事しています。
BASの中でも最大規模となっているのがファイナンシャルサービスを提供する財務報告アドバイザリー(以下、FRA)部門です。ここでは監査を通して得られた知見を活用し、財務諸表作成支援や財務諸表作成の際に必要となる内部統制の支援をダイレクトに行っています。開示の基準はこの20年で非常に複雑化したため、クライアント側も限られた人員で決算や内部統制の対応をし続けていくことに多大な労力を要している現状があります。だからこそ、私たちが当該領域における専門的な知見をもとに多様なサービスを提供できるということは、クライアントが自身の人財を有効活用できることへの貢献につながり、意義のあることだと実感しています。また、私たちの支援を通じて精度の高い開示が可能になると、その先では社会的に信頼される情報の存在につながるため、この分野の支援は会社設立時から継続して行っています。特に米国会計基準や国際財務報告基準(IFRS)にのっとった財務諸表作成支援といった、日本会計基準以外の支援も得意としています。
続いてここ数年でニーズが急増しているのがガバナンス、リスク、コンプライアンス(以下、GRC)の分野です。そもそも企業経営の根本となるのはガバナンスであり、それがしっかりとできていないと信頼を築くことはできません。またそのガバナンスのもとで、リスクマネジメント、コンプライアンスの体制を確立することは、企業の存続にかかわります。そのため、企業のGRCに関する支援は急激にニーズが高まっています。
加えて今後さらにニーズが増えていく見込みがあるものとしてサステナビリティが挙げられ、PwCあらたではサステナビリティ・アドバイザリー(以下、SUS)部門が担当しています。SUSでは出口である開示にとどまることなく、開示につながる経営のあらゆる要素を取り入れた総合的な支援を目指しています。そのためにはそもそもの経営方針の設定から始まり、システムと業務フローを構築して情報を吸い上げる、それらの仕組みに対するガバナンスを設計する、その設計において税務上の影響も検討する、といった領域において、コンサルティングや税務などの専門知見が必要です。これは監査法人のみでは限界があるため、それぞれの専門家が在籍するPwC Japanグループ内の各法人が連携し、総合力を発揮しています。これにより、単なる開示にとどまらず、開示にかかる戦略立案やトランスフォーメーションも支援できることが強みとなっています。また、サステナビリティに即した経営ができているかという観点で内部監査対応ができる人財を有する企業は少ないため、当領域における専門知識を持ったチームがある私たちは社会的な動向やニーズを反映した総合的なサービスの提供が可能であり、今後も提供し続けたいと考えています。
最後にこれらの分野すべてにまたがるものがデジタルであり、PwCあらたではシステム・プロセス・アシュアランス(以下、SPA)部門が担当しています。
SPAには公認会計士資格を持つメンバーも所属していますが、ITのバックグラウンドやテクノロジーに知見を持っている人財が多く集まっています。もともとは会計監査時に付随するシステム監査を担当していましたが、昨今のデジタル化によりそのスキルを活かすことが主流になってきています。というのも、データという概念があまりなかった時代から、財務・非財務情報すべてがデータで表される時代に変わり、そのデータが正しいのかを保証する必要性が出てきたからです。
このような時代の変化に伴い、社内におけるSPAの立ち位置も変化しており、会計監査に並ぶ重要な役割を担っています。SPAのメンバーは一般的なデジタル知見のみならず、私たちが伝統的に行ってきた監査や保証の考え方も徹底的に身に付けており、今の社会のニーズに合った支援をしています
このように4つの部門がそれぞれの強みを発揮し、今後の社会で求められるさまざまな信頼ニーズを満たしています。

現体制になるきっかけは?

今の体制となったきっかけについて伺えますか。

この15年間で監査クライアントとの独立性への規制が厳しくなったことにより、非監査クライアントに対して幅広いアドバイザリーサービスを提供することの重要性が高まり、当社もそこに注力してきました。そのため、現在では監査とアドバイザリーの業務収入比率がおよそ半々というバランスの良いビジネスになってきています。それは時代にマッチする形で組織が出来上がってきた、とも言い換えることができるかも知れません。

共通カルチャーでつながるダイバーシティな環境と自分の可能性を広げることができるPwCあらた

今後のビジネスの展望について教えてください。

まず監査とアドバイザリー領域で比較した際には、後者のほうが潜在的成長率は大きいと思います。監査ビジネスは日本の上場会社の数や監査報酬に依存するため、毎年4~5%ずつ堅調に推移すると見込まれます。一方でアドバイザリー領域は年間で10~15%の成長が可能とみています。アドバイザリー領域ではまだ短期案件が多いのが現状ですが、今後は長期や継続での支援の比率をより高めていき、監査とアドバイザリーの両方を融合して社会の信頼を築いていきたいと考えています。
中でもAIへの信頼性を高めるAIガバナンスのニーズは今後大きくなると想定しています。あるテクノロジーがインフラとなるには「信頼」が必須であり、私たちは信頼を付与するフレームワーク作りの支援に取り組みたいと考えています。最近クラウド利用における信頼構築のニーズが一気に大きくなったように、特にデジタル分野は早急な対応が必要です。その他、メタバースを含めたWeb3やブロックチェーンについても一般の人が安心して使用できる仕組みを作り、「PwCが支援しているから大丈夫」というような社会の信頼の中心になりたいと思っています。なお、各部門で新たな信頼構築に関するサービス開発を行っているのに加え、既存のアドバイザリーサービスの枠を超えた新規サービスの開発と事業創出を専門とするトラストサービス開発推進部(TSRD)も社内ベンチャー的な立ち位置で新規ソリューションの開発を進めています。
このように多様化するニーズに対応するため、スキルのみならず性格や考え方を含めた幅広い人財が混在するダイバーシティが必要になります。私たちはインクルージョン&ダイバーシティと呼んでいますが、それを非常に重要視しており、服装や働く場所・時間などは基本的に自由にしています。その代わり、コアとなる「Speak Up」のカルチャーや価値観とは合致させることを徹底しています。

カルチャーや価値観を結び付けるために行っていることは?

ダイバーシティを広げると企業としてのガバナンスが効かなくなるのではないかと思いますが、カルチャーや価値観を結び付けるために行っていることはありますか。

PwC全体としてはまずPurposeがあり、その下に5つのValuesがあります。また、これに加えてSpeak Upのようなカルチャーが存在しており、これらを全てつなげ、会社全体に浸透させるためにPwCあらたではChief Culture Officerを配置しています。カルチャーだけを専門的に見ていく執行役で、社内外に発信するメッセージをすべてチェックし、一貫性があるか、同じ言葉で同じことを語っているかを確認しています。やはりトップからのメッセージがぶれると、カルチャーは定着しないので、PurposeやValue、カルチャーに沿っているかを必ずチェックしています。
その上で毎年カルチャーに関する何かしらの取り組みを行っており、今年は「Critical Few Behaviors」という取り組みを行っています。これはPwCがPwCらしくあるために必要なことは何か、PwCらしさとは何かを職員にインタビューし、最終的に絞り込まれた3つを必ず全員行動に取り入れましょう、というものです。コアとなるところはできるだけシンプルにすることで全員が徹底しやすくし、かつ定着のために反復して発信しています。
また、Speak Upの取り組みとして透明性も重要と考えており、私自身が直接Speak Upを受けられる仕組みを構築したうえで、Speak Upを受けたら必ず2時間以内に回答し、かつそこでの回答を公表するようにしています。私たちはカルチャーで多様な人財をまとめていきたいと思っていますので、誰もが意見を自由に発言し、それに対してアクションを起こすことでSpeak Upの定着を図っています。

久保田様がそこまでやる理由や掻き立てているものは何になるのでしょうか。

会計士として、不正会計など資本市場を揺るがすような問題が起きた時に困るのは、投資先の成長を信じていた一般市民であることを肌で感じる経験をしてきました。だからこそ、監査法人という組織が資本市場の基盤をしっかりと支える必要性を強く感じました。
同時にそうした組織のメンバーとして、信頼が存在する社会を作っていかなければいけないとも感じ、この2つがモチベーションとしてあると思っています。そのように考えたときにやはり自分1人でできる範囲は限られているので、いろいろな人の声を聞いてその声を取り入れていくことは自分の仕事の中でも重要視しています。

ご転職者への訴求ポイントについて教えてください。

その方の属性によっても企業選択のポイントは変わってくると思います。まずコンサルティングファームと迷っている方については、「信頼に関わる仕事に絞るか」がポイントになるでしょう。コンサルティングファームは広い社会課題に対応しており、信頼の付与だけに絞っているわけではないため、信頼できる社会に向けて自ら直接アプローチし、やってよかったと思える仕事がしたいという方は監査法人が向いていると言えます。
また、他監査法人との比較で言えば、非監査業務の割合が大きいことが最大の特徴として挙げられます。非監査業務が多いとなるとできることも増えるので、それに応じて幅広いキャリアパスを描きやすくなります。具体的にはPwCあらた内で監査かアドバイザリーかを選ぶこともできますし、PwC Japanグループ内の異動も可能です。実際にこの制度を利用して異動しているメンバーも多く、ファームとしても推奨しています。

求める人財は?

最後に求める人財について教えてください。

私たちのベースとなる価値観に共感していただけることを前提として、過去のスキルにとらわれず、変化していく新たなニーズに対応できる好奇心のある方が良いと思います。特にデジタルへの需要が高まり続けることから、今お持ちのデジタル知見を活かして、さらに新しいテクノロジーや発想を織り交ぜた面白い発想ができるような方とはお会いしたいです。
私はキャリア構築は常に掛け算だと思っており、持っているコアスキルに何を掛けるかによってその方の業務における独自のバリューが決まってくると考えています。基盤となるスキルや経験は私たちが提供することができますが、その後の掛け算については結局個々人のモチベーションによるので、専門性の掛け算に意欲的な方にぜひご入社いただきたいです。そのための環境はPwCあらたとしてしっかりと用意しています。例えば、参加したいコミュニティやプロジェクト、部門異動などについて挙手制で自ら要望を伝えられるといったように、自分のやりたいことができる仕組みとそれを後押しするカルチャーがあります。また、グローバルネットワークによるナレッジシェアも積極的に行っており、さまざまな専門家との意見交換を通じ、人に依存する知見の共有を図っています。好奇心と勇気さえあれば、自分の可能性をいくらでも伸ばす掛け算をすることができるフィールドですので、ぜひ門戸をたたいていただければと思います。

※この記事は2023年6月時点の社名を利用しています。

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