KPMGコンサルティングを代表取締役社長 宮原正弘氏が語る

企業インタビュー

場所: KPMGコンサルティング東京オフィス
今回は、KPMGコンサルティング株式会社 代表取締役社長 兼 CEO、宮原正弘様に、KPMGコンサルティングの歴史とカルチャー、これからのビジョン、組織、採用について率直なお話を伺うことができました。

欧州発のコンサルティングファームとしてのカルチャー

宮原様とKPMGコンサルティングのこれまでの経緯をお教えください。

私のキャリアとともに、KPMGコンサルティングのこれまでの歴史をお話できればと思います。
私が監査法人に入社し、会計監査とビジネスコンサルティングを7年ほど経験した後、提携先のアーサー・アンダーセンの米国ロサンゼルス事務所にビジネスコンサルタントとして赴任することになりました。アメリカ駐在時には、ERPを軸とした業務改革コンサルティングを経験し、帰国後は、会計監査の仕事をしながら会計基準改革(会計ビッグバン)、内部統制導入、リスクコンサルティング等に携わりました。2000年代の業界の変化(エンロン事件に伴うアーサー・アンダーセンの解体)に伴って、朝日監査法人はあずさ監査法人と社名を変更し、KPMGグループに加わり、しばらくしてから、再度渡米しました。帰国後はIFRS(国際財務報告基準)導入ビジネスの立ち上げを行い、アカウンティングアドバイザリー、財務会計プロセスコンサルティング、事業再生コンサルティングなどを経験し、2017年にKPMGコンサルティング社長就任の打診を受けました。その当時のKPMGコンサルティングは約700名のコンサルティング組織。会計士の集団ではなく、戦略、業務・情報システム改革、サイバー、ガバナンス、リスクコンプライアンス等のコンサルティングを提供するプロフェッショナルの集合体でした。その700名のプロフェッショナル組織に全力投球するため、監査法人からの出向ではなく、監査法人を退所し、KPMGコンサルティングの社長に就任しました。

宮原様が社長に就任してからのKPMGコンサルティングについて教えてください

2014年の7月に立ちあがったKPMGコンサルティングは当時の100名程度のリスクコンサルティング部隊と同じく100名程度のマネジメントコンサルティング部隊とを統合し、総合コンサルティングファームへと変化していく過渡期にありました。私が社長に就任したときは設立4年目にあたり、異なるコンサルティングファーム、事業会社等から集ったバックグラウンドが多彩な出身者で構成される非常に多様性に富んだ組織でした。
そこで、社長に就任してからの最初の3年は「KPMGコンサルティング」としてのアイデンティティを作ることにこだわりました。外部採用が多く、サービス自体は他のコンサルティングファームと同じようなラインナップの中、「KPMGは違う」という顧客体験を作ることがとても重要だったのです。そのためにも「社風を作る」ことにとにかくこだわってきました。

どのような社風を作ることにこだわってきたのですか?

社長に就任してから『「オーナーシップ」「リスペクト」「コラボレーション」の三つを強く意識してください』とパートナーと社員に向けて発信を続けてきました。「オーナーシップ」はプロフェッショナルとしてチームや会社を代表する存在であってほしいという想いから、コンサルタントに限らず、ミドル/バックオフィスの人にも「オーナーシップ」を強く意識するようにと発信してきました。また、短期間で急速に拡大した組織なので、社員同士のコミュニケーションにそれまでの積み上げが全くない状態でした。そのためコミュニケーションのあり方の根幹として、お互いを「リスペクト」することがとても重要だと考えました。また、一人のコンサルタントができることは本当に限られているので、グローバルネットワークも含めた仲間と「コラボレーション」することが重要だと考え、その文化を作ることにこだわってきました。
KPMGは元々欧州系の文化であったため、他社をリスペクトしコラボレーションする意識を浸透させることは比較的やりやすかったかもしれません。過去の歴史を紐解いても、欧州でビジネスを行っていくと国同士が隣り合っていることから自ずと多国籍のメンバーが集う組織になります。バックグラウンドが異なる者が集うので様々な前提も異なり、プロジェクトを進める上で互いにリスペクトし合うことをとても大事にする文化がKPMGではグローバルでも浸透していると思います。

その社風は、どのように組織に反映されていますか?

我々は「クライアントの健全な成長や発展に貢献する」ために存在しています。健全な成長への貢献というのは、「我々が売りやすいものを売る、売りたいものを売る」ではなく「クライアントにふさわしい価値を提供する」こと。自社の成長戦略はもちろん描きますが、売上や規模をいたずらに追う方策は取っていません。パートナーが自身の成果のために売上を独占するのではなく、他のパートナーと協業することが評価につながるように評価制度を設計しているのもそこからです。また、「人を大事にする」という組織風土にもつながっています。ここでいう「人を大事にする」というのはクライアントだけでなく、ともに働く社員にも言えることです。コロナ禍でも「業績を理由にして、オーナーシップを持ちリスペクトとコラボレーションを実践している人を削減することはしない」という意思の元でビジネスをしてきました。「人を大切にする」という言葉を使うコンサルティングファームは最近増えてきたような感じがしますが、本当にその言葉どおり実践することがとても重要だと思っています。
コンサルタント一人の力は限られていて、チームでコラボレーションすることが大事。それは「社長が変わろうとパートナーが変わろうと、KPMGに仕事を依頼したい」という顧客体験の提供になり、KPMGのファンとなるクライアントを増やすことにつながります。
コロナ禍の中でも、たとえすぐには売上に繋がらなくても、顧客に寄り添って課題に向き合ってコミュニケーションしてほしいと発信してきました。これをしっかり進めてきたことが差別化につながると思います。
採用に関して言えば、社風に共感してくれた方のキャリアに寄り添うことを意識しています。プロジェクトの人が足りないからとにかく採用するということはせず、その人が持っている力とありたい姿に寄り添う形での採用をしています。年収オファーを吊り上げるような即物的なオファーではなく、その人の能力を適正に評価した上で、その方のキャリアプランに向き合って将来のキャリアパスを提示していく。何よりも重要なことは、しっかりとその方のキャリアに向き合って一緒に入社後のイメージを作っていくことです。そのうえで最適な職位と年収を提示しています。その人のキャリアに真摯に向き合っていった結果、弊社を選んでくれる方が増えています。新卒人気企業ランキングでの順位も上がってきていますし、一度KPMGを退職したコンサルタントも、他ファームや事業会社を経験した後に、KPMGの良さを再認識して当社に戻ってくることも多々あります。

変革のオーケストレーターとして、「Clear Choice」を実現する存在でありたい

今後のビジョン・戦略について教えてください。

コロナによって仕事の仕方も変わり、「今のままではビジネスはうまくいかない」と考える顧客に向き合う上で、5つの領域「戦略・業務改革・IT/デジタルインフラ・GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)・サイバーリスク」の5つの領域に力を注ぐことを中期経営計画で定めています。
アウトソーシングビジネスやシステム開発は直接自社では行いません。あらゆる人材を社内で抱え込むことはせず、より専門的な知見を持つ社外の、人材、事業会社、スタートアップとも協業していく。私たちはコンサルタント集団として、変革のハブ、「オーケストレーター」でありたいと考えています。クライアントの変革を進める上で、シナリオライターであり伴走者でありサポーターとして存在する姿を目指しているのです。
そのためにマネジメントコンサルティングとリスクマネジメントの両輪を回します。
マネジメントコンサルティングは「成長やコスト最適化戦略」。リスクマネジメントは「法令等に準拠し、リスクをマネージする攻めの戦略」。このすべてに、デジタル・データ、セクターの知見を入れていく。更にこれらはパートナー個人が自身の専門領域だけでクライアントを支援するのではなく、他のパートナーや社員とコラボレーションし、チームとしてのシナジー効果を発揮することによって実現します。
KPMGがOur Vision(私たちの目指す姿)として掲げている「Clear Choice」は、社会・顧客・社員から常に選ばれる組織であること。いきなり50%成長を目指すような無茶な戦略設定はしません。
私がいなくなっても、今いるパートナーが入れ代わっても、KPMGとしてのスタイルは変わらず社会・顧客・社員から選ばれる存在でありたいと考えています。

変革のドライバーとなるあなたの大志を、全面的に応援します

今後、KPMGコンサルティングとしてはどんな人材を採用していきたいですか?

コンサルタントとしての適性を持っている方であることは前提として、「日本企業・社会をもっとよくしていきたい」という想いと、「人間力」のある人ですね。
実際にコンサルタントの仕事をしていくのはとても泥臭い。理不尽なこともたくさんあります。1+1=2に必ずしもならないリアルな日本社会の中で、相手の懐に入って巻き込みながら課題を解決していく、イノベーションを創発していくお手伝いをするのがコンサルタントの姿です。我々はグローバルネットワークをもったコンサルティングファームですが、日本のクライアントのほとんどは日系企業です。日本の企業が健全に発展していくこと、それを通じて社会に貢献することをメインミッションに動いています。『日本のために、社会のために、日本企業をよくするために、大変なことも乗り越えていく』という姿勢で仕事をしていける「大志」を持った方にKPMGコンサルティングで活躍してもらいたいと。
また、「自律的なフォロワーシップ」を持てる人。前向きな姿勢で仕事に取り組み、リーダーの発言に対しても違和感を持ったときはきちんと建設的に主張し、会社へ業務の目的のために回りをどんどん巻き込んでオーナーシップを持ち物事を進めていける人。物事を進める上で少し先のことを見すえて、気を利かせることができるような人ですね。そういう人はいろいろな人にかわいがられますし、いいコンサルタントになるでしょうね。
KPMGというブランドはあくまで最低保証のようなもの。クライアントに選ばれるのはその中の人自身なのです。最後に選ばれる人は、結局前述したような志にあふれた人間力の高い人だと思います。

そのような方に対して、どんな環境を提供していきますか?

私は、中途採用で入社した人には必ず「我々を選んでくれてありがとう」と「あせらずじっくりやってほしい」と伝えています。数多くの選択肢の中からKPMGを選んでくれた人を大切にしたい。
「人を大切にする」ということを体現するために、必ず「違和感があったら遠慮なくフィードバックをして欲しい」と発信を続けています。
多様な働き方を実現するために、社員からフィードバックを多くもらいながら、制度を作ってきました。例えば、服装も「最適な形で選ぶ」というように変えました。顧客の状況やTPOを踏まえて、一番生産性が上がる服装を自身で選ぶようにしています。私自身もクライアントの雰囲気や当日の仕事環境に合わせて、カジュアルな服装で問題ない場合はTシャツで仕事をすることもあります。
在宅勤務制度は今後維持していくつもりですし、自宅だと仕事しにくい社員用に集中できる場所としてシェアオフィスも用意しました。従来は退職しなければならなかった事由を休職に変えられるようなサバティカル休暇やライフタイム支援休暇なども作ってきました。副業も一定の条件を満たせば認める、マルチエクスペリエンスプログラムを作りました。
また、最近KPMGコンサルティングの退職者と在職者をつなぐアルムナイネットワークを立上げました。卒業生との情報交換や協業だけでなく、KPMGの卒業生にとって、第二の故郷としいつでも戻ってこられる場所としての仕組みを整えたいと思っています。KPMGのアルムナイがつないでくれたことで生まれたプロジェクトやアライアンスも実際に存在しています。
業務に関していえば、スポーツやスマートシティ、サステナビリティトランスフォーメーションなど、社会的なテーマへの取り組には専従社員だけでなく、社員のだれもが空き時間で参加できる仕組みを作ったり、その他にも組織横断的なコミュニケーションの場を用意したりしています。私自身もブログのほか、Masa’s Radioというラジオ番組を放送しており、社員からの様々な投稿に対して、カジュアルなスタイルで答えるようにしています。
コンサルタントとして顧客のプロジェクトワークに集中していくと、自分のプロジェクト以外が見えなくなって、孤立してしまうこともあると思います。何かあった時に周りとコミュニケーションできる関係を会社の中で作っておきたいと考え、多くのチャネルを整えています。常にキャリアについての相談を受け付けるキャリアサポート室(通称・キャリサポ)もそのひとつです。
一つ一つは小さなものですが、このような取組みを地道に長く多く続けていくことで、「風通しのよい、オープンな組織」が出来ていくと思っています。
私自身だけでできることは限られていますが、パートナーをはじめとした社員の多くがこのような取り組みにも積極的に活動してくれています。みんなに感謝ですね。

社風とお人柄が垣間見えるお話、ありがとうございました。

宮原 正弘(Masahiro Miyahara)様のプロフィール

KPMGコンサルティング株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
旧・朝日新和会計社(現・有限責任 あずさ監査法人)入所後、会計監査、会計・内部統制アドバイザリー、ビジネスコンサルティング、ITコンサルティング業務等を担当。米国・ロサンゼルス事務所、ニューヨーク事務所への駐在を経た後、KPMGアカウンティングアドバイザリーサービス日本代表およびアジア太平洋地域代表に就任。
17年7月よりKPMGコンサルティング 代表取締役社長 兼 COO、18年7月より現職。
現在は、セクター部門の責任者を兼ねる。
聞き手:インフォエックス 代表取締役 朝雄 弘士

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