ローランド・ベルガーをプリンシパル 徳本直紀 氏が語る

企業インタビュー

クライアントの10年後、20年後を描き「和ノベーション」を起こしていく未来志向のコンサルティング

ローランド・ベルガー プリンシパル 徳本直紀 氏 

京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、ローランド・ベルガーに参画。自動車を中心とした製造業及び、ヘルスケアの分野を中心に幅広いクライアントにおいて、全社戦略、M&A/PMI、企業再生、デジタル化、オペレーション改革のプロジェクト経験を多く有する。

「未来志向」は創業者から継承するDNA

――ローランド・ベルガーと徳本様の簡単な自己紹介からお願いします。

徳本:ローランド・ベルガーは、1967年にドイツで設立されたヨーロッパを代表するコンサルティングファームです。50年にわたって継続的な成長を続けており、現在では、日欧米をはじめ、中国、東南アジア、南米、アフリカ、中東など世界34か国に2,400人を超えるスタッフを擁し、グローバル市場で高い評価を受けています。東京オフィスは1991年に発足し、2018年12月現在、100名程度のメンバーが在籍しています。現在、グローバルで最も利益率が高く、急成長中のオフィスです。
 

私はもともと大学院でバイオテクノロジーの研究をしていたのですが、多くのバイオ・ベンチャーがビジネスに苦戦しているのを見て、ビジネスを学びたいと考え、2008年に新卒でローランド・ベルガーに参画しました。この会社を選んだのは、少数精鋭で勢いのある風土が私に合っていると思ったからです。現在、入社11年目で、自動車業界とヘルスケア業界のコンサルティングを中心に担当してきました。

――ローランド・ベルガーが今どのような取り組みをしているのか、コンサルティングの特徴を教えてください

徳本:最も特徴的なのは、「未来志向」であることです。

私たちは、10年後、20年後のクライアントのビジネスを、クライアントと一緒に描き、実現するコンサルティングを長年得意としてきました。特に、ヨーロッパ発のコンサルティングファームらしく、トップダウンではなく、ミドルアップで長期戦略を構築するのが、私たちの一貫したビジネス方針です。

ローランド・ベルガーは、そもそも創業者ローランド・ベルガーが、長期戦略のコンサルティングを行うために立ち上げた会社。未来志向は、私たちが創業者から継承するDNAの1つです。

例えば、私が担当する自動車業界は今、「CASE」が業界全体を変えると言われています。CASEとは、コネクティビティ(接続性)の「C」、オートノマス(自動運転)の「A」、シェアード(共有)の「S」、そしてエレクトリック(電動化)の「E」の4つを表す言葉です。中でも、自動車メーカーを中心にして、各社が一斉に「MaaS(Mobility as a Service)」に向かい始めています。MaaSとは、コネクティビティやエレクトリックを通じて、自動車などのモビリティをさまざまなサービスとして提供することです。そこにはシェアードサービスも含まれます。これらのサービスを通じて、モビリティの利便性・移動体験・走る喜びなどを、これまで以上にユーザーに提供していこうとしているのです。自動車業界は、MaaSを次の大きなビジネス・オポチュニティと捉えています。
 

しかし、MaaSは1社では決して実現できません。自動車メーカー、プラットフォーマー、交通サービス企業など、さまざまなレイヤーの企業が連携して、初めてビジネスとして成り立つのです。また、MaaSという概念は広く、具体的なサービスやビジネスモデルはまだ確定していません。そこで私たちは、クライアントがMaaSの中で具体的にどのようなサービスを行い、どのようなビジネスモデルを構築するのか、どういった企業連合でビジネスを進めていくのがよいか、どのステップでビジネスをトランスフォーメーションしていくのかといった戦略を立て、具体的な未来を描き、クライアントがその一歩を踏み出すサポートをしています。

また、私がもう1つ担当するヘルスケア分野では、ヘルスケア業界への新規参入のアドバイスを積極的に行っています。実は今、デジタルツールなどを使って、ヘルスケア業界に新たに参入しようとする企業が増えているのです。私たちは、そうしたクライアントに対して、ヘルスケアのトレンドや近未来予測をお伝えしたり、新ビジネスのマネタイズプロセス戦略を提案したりしています。私たちが今、特に注目しているのは「予防医療」です。これからは70代になっても多くが働く時代。高齢化社会を支え、健康寿命を延ばす予防医療が一層重要になっていくことは間違いありません。予防医療であれば、新規参入できる可能性はあると考えています。
 

普通なら10年かかることを濃厚な数か月で一気に完了

――プロジェクトはどのように進めるのですか?

徳本:平均的に見れば、3~4カ月のプロジェクトを3~4名のチームで進めていくのが一般的です。とはいえ、一方でさまざまなプロジェクトがあることも確かです。例えば、私が以前、インダストリー4.0に関する新規ビジネスの立ち上げ支援を行ったときには、2年間、コンサルタント2名でクライアントのオフィスに常駐し、クライアントの皆さんとともに、企画からプロトタイピングまで、すべてのプロセスに携わりました。
このプロジェクトが典型的ですが、コンサルタントがクライアントのオフィスに常駐し、そのビジネス・組織・文化にどっぷりと浸って、経営者やキーパーソンの方々と腹を割って話し合いながら進めていくプロジェクトが多いのは、ローランド・ベルガーの大きな特徴です。そうすることで、普通なら10年かかるようなことを濃厚な数カ月で一気に完了していくのが、私たちのスタイルなのです。
 

――0から1を生み出す「ピュア戦略」のプロジェクトも多いのですね。

徳本:はい。今お話しした新規ビジネスの立ち上げ支援プロジェクトのように、0から1を生み出すプロジェクトも少なくありません。
 

――徳本様は2つの業界を担当していますが、それは御社では普通なのでしょうか?

徳本:ローランド・ベルガーでは、2つ以上の業界を担当することも珍しくありません。そこには明確な理由があります。私たちは未来志向のコンサルティングを行っていますから、専門知識以上に、「広い視野」を持つことが求められます。クライアントにはない視点・視座・ものの見方を提供することが、私たちの存在価値なのです。そのためには、ある業界だけに特化するよりも、いくつかの業界をまたいでいるほうが都合がよいのです。実際、他業界のアナロジーを当てはめることで、面白いビジネスやサービスが生まれることも少なくありません。
 
例えば、現在の自動車業界とヘルスケア業界に共通しているのは、「本質的な価値の追求」です。すでにお話しした通り、自動車業界では、自動車そのものから、自動車の利便性・移動体験・走る喜びを提供する方向に変わりつつあります。ヘルスケア業界では、病気を治すことから、リスクを低減する予防医療に比重が移ってきています。重要なのは、どちらの業界も、自分たちの本質的な価値を突き詰めた結果、その方向に変わってきていることです。2つの業界を担当すると、こうした発見がいくつもあるのです。
 

また、自動車業界では最近、走行距離や運転挙動のデータから事故リスクを割り出す「テレマティクス保険」の商品化が進んでいます。医療保険でも同じように、行動データによって保険料が変わるプランが今後増えてくるかもしれません。異なる業界に関わっていると、こうしたことも横断的に見えてきます。
 

――グローバルナレッジはどのように活用しているのでしょうか?

徳本:ローランド・ベルガーは、5年ほど前から「ワンファーム」を標榜しており、グローバルレベルでの情報交換やコミュニケーションを極めて密に行うようになりました。例えば、グローバルのイントラネット上には世界中の知見が蓄積されており、メンバーなら誰でもアクセスすることができます。その知見についてもっと深く知りたいときは、世界のどこかにいる担当者と直接連絡を取り、ヒアリングすることも簡単です。また、先進サービスや新しいテーマについて知りたい場合には、グローバル各国のオフィサーにメールすると、そのサービスやテーマの知見を持ったグローバルの仲間とすぐにつながることができ、彼らがフランクに情報を提供してくれます。

「和イノベーション」で人中心の社会を作りたい

――御社が掲げる「和ノベーション」について、詳しく伺えればと思います

徳本:「和ノベーション」は、ローランド・ベルガーが提唱する日本型イノベーションです。この言葉には、日本ならではの「和」、対話の「話」、仲間の「輪」の意味も含んでいます。企業や個人が持つさまざまなノウハウ、技術、知恵などの「暗黙知」をモジュール=「ありもの」として見える化し、対話を通じて、「ありもの」を部門、企業、業界を超えた仲間の輪へと広げていくのが、和ノベーションです。私たちは、このような「ありもの」の徹底的な活用により、異次元のスピードで新しい価値創出を推進し、その結果として日本を元気にしたり、人中心の豊かな未来社会を作ったりしたいのです。
 

和ノベーションを起こすのは1社では不可能です。「仲間たち」との連携が欠かせません。ローランド・ベルガーの場合は、世界最大のイノベーションデータベースを保有する「アスタミューゼ」、カイゼンのエキスパート「カイゼン・マイスター」、システム x デザイン思考を研究する「慶応技術大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科白坂研究室」といった多くの仲間企業とともに和ノベーションを進め、クライアントの新たな領域へのチャレンジを質高くサポートする体制を整えています。もちろん、この仲間たちの輪は、私たちのためだけにあるわけではありません。私たちも輪の一員として、仲間たちに大きく貢献していきます。

和ノベーションの背景には、「コンサルティングビジネスへの危機感」があります。正直に言って、私たちは、問題解決と戦略立案に特化したコンサルティングビジネスを、このまま10年後も同じように続けていけるとは思っていません。戦略の実現性と革新性を高めなければ、私たちのビジネスに明日はないでしょう。もっと言えば、実現の最初の一歩を、自分たちが主体となってスピーディーに実現に踏み出すくらいの姿勢が必要だと考えています。それが和ノベーションなのです。

――今後はどのようなチャレンジを考えていますか?

徳本:いくつもありますが、一例を挙げると「ビジネスモデルの細分化」への対応です。今後は都市と地方の二極化がさらに進みますから、都市で求められるモビリティサービスと、地方で求められるモビリティサービスはかなり違うはずです。多くの業界で、こうしたビジネスモデルやニーズの細分化が起きてくるでしょう。このような変化にも積極的に適応していきたいと考えています。

面接を「ディスカッション」と捉えている

――なぜ今、積極的な採用を行っているのですか?

徳本:私たちの未来志向のコンサルティングに対する引き合いが多く、ビジネスと組織を拡大できるタイミングにあるからです。現在、日本法人は100名程度の組織ですが、短期間で1.5倍~2倍の規模にしたいと考えています。
 

――どのような方を求めていますか?

徳本:個人的には、面接時の判断基準としているのは「考えるのが好きかどうか」「独自視点を持っているかどうか」「本質を突き詰められるかどうか」ということです。自分なりの視点やアンテナを持ち、本質を見抜いて主体的にソリューションを考え、未来を見据えてプロアクティブに行動できる方を仲間に迎えたいと考えています。 また、重要なのは「何かを極めていること」です。私たちの組織には、ものづくり改革の専門家もいれば、データサイエンスのスペシャリストやアパレル業界のプロフェッショナルもいます。先ほども触れたとおり、何か一つを極めていれば、その知見を異なる分野に持ち込み、クライアントにない視点・視座・ものの見方を提供することができます。つまり、プロフェッショナルの知見は応用が効くのです。極め人の集合体であることが、私たちにとって理想的な状態です。

――採用プロセスを教えてください

徳本:面接は通常3~5回程度でケーススタディ形式で実施することが多いですが、候補者の方のご経験に基づいてご質問させていただいたり、ディスカッションをさせていただくような面接になることもあります。また、戦略コンサルティング未経験者の場合、筆記試験を実施しています。

――これから面接を受ける方にアドバイスをいただけないでしょうか?

徳本:私は、面接を「ディスカッション」と捉えています。ディスカッションで重要なのは、アイデアを進化させることです。日常のディスカッションでは、いくつかのアイデアが否定されても、結果的に優れたアイデアが進化していけば、それほど気にならないはずです。しかし、面接の場合、面接官にアイデアを否定されると、過剰にディフェンシブになる方がいらっしゃいます。それでは、良いディスカッションにはなりません。アイデアを否定されてもディフェンシブにならず、アイデアを進化させるという姿勢を忘れずにディスカッションを楽しんでいただけたら、良い結果に一歩近づけるのではないかと思います。

――どのような社風ですか?

徳本:極め人の集合体でありながら、一方で人の良いメンバーが多く、ファミリアな雰囲気があります。プロジェクト内外を通じて、アルムナイも含めて様々な外部との交流もあり、何年か在籍していれば、自然とネットワークもできていくはずです。また、ヨーロッパ発の会社らしく、ローランド・ベルガーはダイバーシティを極めて大切にする会社で、多様な方を受け入れる文化があります。それから、最初にも少し触れたとおり、東京オフィスはビジネスも組織も急成長中で、オフィス全体に勢いがあることも間違いありません。

――最後に一言、メッセージをお願いします。

徳本:ローランド・ベルガーで経験を積めば、どこに行っても重宝される人材になれることは私が保証します。なぜなら、本質を見抜く戦略思考とプロアクティブな行動力を磨けるからです。また、常に自分に足りないところを見出し、高めていく姿勢が身につくからです。ぜひ一緒に日本を良くしていきましょう。お待ちしています。

聞き手:インフォエックス 代表取締役 朝雄 弘士

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