2023年4月に新体制へと移行し、新たなステージに入った株式会社日立コンサルティング。今回は常務取締役の鈴木様に、日立コンサルティングのこれまでとこれからについてお伺いしました。
目次
プロファイル
鈴木崇司様
東京大学工学部を卒業後、都市銀行に入行。コンサルティングファームの企業担当を務める中で、コンサルティングファームの方が企業に貢献していけるのではないかと考え、コンサルタントに転身。外資系コンサルティングファームを経て、日立コンサルティングの立ち上げに関わる。2023年4月 常務取締役に就任。
日立コンサルティングについて
2002年、日立製作所の子会社として、ビジネス戦略とIT戦略を統合したソリューションの提供を目的に、現在の前身となるコンサルティング会社が誕生。当初は20名規模のコンサルティングファームとして活動をスタートし、その後2006年4月に株式会社 日立コンサルティングに社名変更。日立製作所のビジネスソリューション事業部を統合し、規模と業容を拡大。日立の強みである「社会イノベーション」と「DX」にフォーカスした事業を展開し、今もなお増え続けるクライアントニーズに応えるため、組織拡大に向け採用を強化している。
「社会イノベーション」「DX」にフォーカスしたコンサルティングファーム
なぜ日立コンサルティングは社会イノベーションにフォーカスすることになったのか教えてください。
2006年に日立コンサルティングに社名を変えたのち、日立製作所のビジネスソリューション事業部を統合し、最初の基盤ができ上がりました。最初のうちは日立グループ内のダイナミックな案件を得て、早期にビジネスの基盤を固めることができ、ビジネスの拡大を目指してシステムインテグレーション領域にも進出しました。ただ、急拡大の中でシステムの品質保証体制が整っていなかったため、大型ERP案件等で失敗することもあり、「コンサルティングファームはコンサルティング業務に集中すること」「実現手段の導入については、やはり日立製作所の総合力と連携すること」が大事であると気づかされたのです。
そしてコンサルティングファームとして何をすべきかを考え、「日立」の強みである「社会イノベーション」にフォーカスを当てよう、と決めました。
こうして日立コンサルティングとして再スタートし、社会イノベーションに向け、デリバリーをやり切ることでクライアントから評価をいただくことに注力してきました。
その後、2015年頃から社会イノベーションにおける「ビジネスエコシステム」の構築をテーマに掲げるようになり、多くのお客様やステークホルダーの方々から共感・賛同を得ることができ、このテーマ・事業内容に共感してくれる人財の確保や育成が進みました。
こうした背景があり、弊社は社会イノベーションにフォーカスし続けているのです。
日立コンサルティングが考える「社会イノベーション」について教えてください。
まず、皆さんご存じのとおり、社会情勢は大きく変化しています。気候変動、資源枯渇等地球全体の限界への対応が求められるようになる中で、人口減少や高齢化、都市化、グローバル化等社会や生活の変化への適合がビジネスを行うすべてのプレーヤーにとって不可欠になっています。価値観が多様化する中で社会的責任の重要性が高まり、経営スタイルも「管理・統制」から「共感」が重視されるようになってきていると感じています。
社会情勢が不安定さを増す中、我々日立コンサルティングの使命は、良識を持って社会課題の解決をめざし、また、テクノロジーを正しく活用してより良い社会を作る、そうしたことに貢献することだと考えており、それが「社会イノベーション」の意図するところです。
「社会イノベーション」は、まさに我々の存在意義・使命であり、弊社の社員が共感を持ってコンサルティングに取り組むビジネス・コンセプトとしても位置付けています。
その中でも弊社が特に重点をおいているのは「モビリティ」「健康・ヘルスケア」「グリーン」といったフィールドです。それぞれ、クライアントは「データ一元化による実現」や「縦割り業務の変革等による実現」という思いを持っている一方、それをビジネスの形でどう実現するのかという課題に向き合っています。
モビリティ領域でいえば、データを用いた「人を運ぶサービス」の変革。こちらは10年にわたり取り組んでおり、「移動価値」をベースとしたサービス変革のアプローチを続けています。こうしたノウハウ・実績を基に、様々なモビリティの改革テーマに取り組んでおり、直近ではある新駅周辺の再開発における産官学連携のデジタル構想にも関わっています。
モビリティ領域のテーマは地域性が非常に高いのも特徴で、地方の過疎化問題の解決には、その地域性を踏まえ、産業体も絡めたエコシステムを作り「その地方にいることがビジネス的にも生活的にも価値がある状態」にすることが必要だと考えています。
鉄道インフラを例にとると、往々にして「鉄道と駅近辺の業者」という関係を基点に作られることが多いのですが、それだけではなく、そこに住む生活者に対してサービス提供を行う組織と、いかにパートナリングを進めていくか等も大きなイシューとして存在しています。モビリティという手段だけではなく、インフラは社会の根幹の要素であるという理解のもと、広い視野を持って取り組んでいきたいと考えています。
「健康・ヘルスケア」の領域は「病院医療」のイメージが強いかと思いますが、それ以上に大きな課題である「製薬企業と被保険者および保険会社の間のエコシステム作り」等を進めています。これまで病院と繋がることが多かった製薬企業は、基本的に「病気が顕在化した患者」としか繋がれない状況にありました。患者となりうる方と接点のある保険者・民間保険会社と製薬企業を繋げることができれば、より有用な価値提供ができるようになるため、デジタルの力で被保険者と製薬会社をつなげる取り組みを行っています。その上では法規制の扱いをクリアしなければならず、そういったテーマにも専門性を高めて対応しています。
グリーンは社会、国、企業にとって喫緊の課題であり、企業にとっては事業の存続や競争優位の確保・維持に直結しかねない重要テーマの一つです。我々も「脱炭素」の実現に向け、ESGマネジメントサポート、脱炭素化・再生エネルギー導入支援、工場やサプライチェーン向けの計画策定・最適化支援等、様々なソリューションを整備しています。
文字通り「最適化」が重要なキーワードになりますが、企業プレーヤーが個々の自社最適を進めているだけでは不十分で、ここでもエコシステムのアプローチが重要になると考えています。あるお客様にて自社内の「脱炭素」に向けた最適化のプロジェクトを進めた後に、そのお客様にとって重要なサプライチェーン上の別の企業にも最適化のプロジェクトを進め、繋げる、といったアプローチを行っています。単一企業から複数企業視点での「最適化」の取り組みは難しい点も多いですが、日立製作所の革新的な技術の力もお借りしながら、重要な取り組みとして進めていければと考えています。
日立コンサルティングが考える「DX」について教えてください。
日本企業をよりよくするためにはDXが必要ですが、多くの企業においてPoC*で話が止まってしまい、DXが成果・結果を生むに至らない実情があります。日本企業でDXを進めていくには、コンサルタントの力だけでなくその組織の中でDXを推進していく能力、特に人財が必要です。それが外部から採用できるならまだ良いですが、採用できないのであれば、今組織にいる人財をいかにリスキリングしてDXを推進できる人財に育成していくかが重要になります。また、DXを進めるうえでは、法規制や社会の要求にも応える、良識ある取り組みであることも必要と考えています。実証実験で終わるのではなく、実現までこだわって取り組むことが「責任あるDX」だと考えています。
私たち日立コンサルティングは、「責任あるDX」をビジネスコンセプトとして掲げ、日立グループとしてのつながりも深い官公庁、社会インフラ、製造業、金融業等のお客様の非常に重要度の高いプロジェクトに参画しています。
PoC: Proof of Concept。新しい事業・技術・アイデア等が実現可能かを実証・検証すること(実証実験、検証)。
「責任あるDX」というのは?
提案やPoCで終わらせずDXを実現させていくことです。
例えば、流通データ等の個人情報を活用したビジネス変革の実現においては、個人情報の適切な取り扱いと、日々増加していくデータの適切な管理等、データガバナンスの仕組み作りが常に大きなハードルとなります。こうした課題への対処で重要であるのが「ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)*」への配慮であり、私たち日立コンサルティングは、DXを進める上で避けて通れない取り組みとして、他のコンサルティングファーム各社に先駆けて重要性に注目し強化を進めてきました。
また、DXを進める上ではクライアント企業側において「どのような人財が組織内に必要か」の定義と、その人財の育成が必要です。クライアント組織の中で、DX経験がない方がいきなり行うことが難しい業務についても、我々日立コンサルティングが日立グループ内で改革を進めたバッドケースも含めたノウハウをもってハンズオンで伴走し、育成していくこともあります。
*ELSI:Ethical, Legal and Social Issues/Implicationsの略称であり、技術の研究開発/社会実装に伴って生じる、法的・倫理的・社会的な課題/影響をさす。
数年前までは日立グループの中では「日立のビジネスの中でコンサル機能も必要」という程度の認識でしたが、この2-3年でDXを進める上でクライアントに寄り添い、リードするコンサルティング機能が必須という考えに変わってきています。インフラ業界をはじめとした重要クライアントに対して、DX推進の先導役になる。日立コンサルティングは、お客様はもちろん、日立製作所をはじめとした日立グループ各社からも、そういった役割を期待されています。
メーカとしてクライアントの求めるものを形にする技術を持つ、日立グループ各社の力を最大限発揮するため、そもそも何が求められているのかを、クライアントと共に構想していくのが私たち日立コンサルティングの役回りです。
グローバルロジック社のM&Aを日立グループが行いましたが、グローバルビジネスについてはいかがでしょうか。
日立グループ各社とグローバルロジック社との連携においては、日立コンサルティングがリード役の一端を担おうとしており、グローバルロジックの幹部クラスと日立コンサルティングのキーメンバーが、日々やりとりをしている状況です。
グローバルロジック社はソフトウェア開発やエンジニアリングサービスを提供するグローバル企業で、アイデアやコンセプトから、設計、開発、テスト、導入までのフルライフサイクルをサポートするエンドツーエンドのサービス提供に強みがあり、様々な業界に対して豊富な実績とノウハウがあります。しかし、そのサービス提供スタイルが日本企業のDXにそのまま適用できるかというとそうではなく、日本企業のクライアントに対するDX推進のために同社の価値をどのように発揮するのが良いかを検討しています。国内においてDX人財が大きく不足しているなか、グローバルロジック社はウクライナやアルゼンチン、インド等でDX人財を確保しており、それをうまく活用することでクライアントのDX実現の一助になるはずだと考えています。
「日本の社会課題」に起点を置いたコンサルティングファームとして
日立コンサルティングの今後の人員戦略を教えてください。
2020年代後半には現状の2~3倍の組織体にしたいと考えています。この話だけを聞くと、他のコンサルティングファームと比較して消極的と捉える方もいるのですが、日本の社会課題の解決と日本企業のDX推進を考えるとき、それこそグローバルロジック社のような日立グループ各社とともに総力を挙げて課題解決にあたっていくことが重要だと思っています。
日立コンサルティングという一企業で全てをカバーするのではなく、日立グループ各社を巻き込んで物事を進めていく中心的存在として日立コンサルティングを捉えた時の人員計画として考えています。日立コンサルティングの成長だけにこだわるのではなく、日本の社会課題、クライアントの課題の解決に向き合うことが大切だと思っています。
それを踏まえて、どのような方を求めている状況でしょうか。
第一に、「日本の社会課題を解決したい」と考えている方を求めています。向き合うクライアントの課題一つひとつが社会課題に紐づくものであるのが、日立コンサルティングの仕事の特徴です。例えば建設/プラント業界のDX化。作り上げるモノが非常に大きなものでありながら、曖昧な仕様決めプロセスが残る等の問題が根深く存在します。デジタルの力を活用し、各業界に存在する曖昧な業務プロセスを解決する、これは関わるプレーヤーの皆様だけなく、結果として社会全体の変革にも貢献しうる社会課題だと認識しています。
また、社会課題の解決を考えた時に、社会性だけを追求するのではなく、ビジネスで解決としていくことにこだわることが重要です。国の制度変革だけに期待するのではなく、ビジネスの力でいかに社会課題を解決する仕組みを作るか。そこに向き合うことができる方を求めています。
更に、こういった問題意識に加えて、柔軟性と環境を楽しめる力を持っている方であることが大事です。日立というブランドに対するクライアントの信頼に応えるためには、時として「こんなところまで責任を持たなければならないのか?」と思うようなことにも向き合うことがあります。そういう環境を楽しめる方であることがポイントかと思います。
また、周囲との協力関係を大事にしつつ物事を進めていくことが必要な中で、コンサルティングスキルだけでなく、視座を高くして人間性も磨かないといけないと思っております。結果的に、一言で言うと弊社には「いい人」が多く集まる組織カルチャーがありますね。
転職希望者の方にメッセージを
最後に、コンサルタントを志す転職希望者の方にメッセージをお願いします。
日本企業のDX、社会的価値創造。まずは日本を基点として課題を解決したいという思いを持っている方に対しては、その思いを満たせる場を提供できると思っています。
また、弊社は「リソースを活かした大規模なプロジェクト展開を進めるより、少人数でいかに価値のある課題解決を行うか」を考えている組織です。特に日本の課題に対する問題意識を持つ方に対しては、その解決にダイレクトにつながるような社会実装を進めるプロジェクト等へのアサインメントの場をご用意できると思っています。
社会変革を実感できるフィールドのある日立コンサルティングで、皆さんが解決したい課題に是非挑んでください。
貴重なお話しをありがとうございました。