マーサージャパン株式会社

 

今回は、組織・人事コンサルティングにてグローバル最大級のビジネスを展開するマーサージャパン株式会社、
組織・人事変革コンサルティング部門代表 山内博雄様に、組織・人事コンサルティングの歴史や今後の展望、マーサージャパンのカルチャーなどをお伺いしました。

 

マーサージャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング部門代表 山内博雄様

 

 

◇自らの経験を経て、関心が「金融」から「人事」へ

―山内様のこれまでのキャリアについて教えてください。

就職氷河期世代ど真ん中である私は、新卒で日系の大手銀行に入りました。大学で経済学を勉強し、経済の血液である金融に関心があったためですが、当時の金融業界は不景気の真っただ中。1年目に配属された営業店では、不良債権処理などの後ろ向きな事務仕事が多くを占めていました。マクロなことへの関心が高かったため調査系セクションを希望していましたが、入行2年目の本配属では希望とは異なる部署に配属。いまでいう、いわゆる「配属ガチャ」ですね。こういった会社主導で人事を決める仕組みは、それが良い人もいるかもしれませんが、私のようにやりたいことが明確な人間には合わないなと感じたのが、転職を考えたきっかけです。世の中では、こういった不本意な配属が膨大に起きていて、果たしてこの国の人々は幸せに仕事ができているのだろうか、日本企業はこのままで良いのかと、それが人事領域に強い関心を持った原体験でした。

 

そんな思いもあり、新しい部署に異動してほどなく、縁あってマーサージャパンに入社。日系企業の海外拠点向けの組織人事支援や、当時勃興期だったM&Aに関わる組織人事コンサルティングに5年ほど従事しました。その後、米系戦略コンサルファームで戦略コンサルティングを3年弱経験した後、ある事業会社グループからお誘いを受けて、30代の初めにグループ会社のCFOに転職しました。そこでは5年ほど、ホールディングスの経営企画責任者や各事業部門のCFO等を務めていました。

 

事業会社では、人にも恵まれ、後半は海外拠点で楽しく仕事をしていたものの、以前から感じていた日本企業の経営や人事に対する問題意識が変わることはありませんでした。その中でいくつか、きっかけとなる出来事があり、そういった問題意識が大きくなる中で、マーサー在籍時の先輩でもあった当時の社長ほか先輩方にご相談して、ふたたびご縁あって2014年に復帰することになりました。

こういったバックグランドですので、再度ジョインしてからは、役員報酬やデジタルといった特定の人事領域にフォーカスするというよりは、人事・経営コンサルタントとしてのスキルや、ジェネラルマネジャーとしての経験を活かし、社内の各領域の専門家とも連携しながら、幅広い業界のクライアントに対して、様々な経営・人事面の支援を行ってきました。

 

約3年前に現在の部門長ポジションに就任してからは、クライアントワークも続けながら、組織運営・事業開発などのマネジメントロールをメインのミッションとしています。

 

 

―現在のマーサーのビジネスについて教えてください。

マーサーはマーシュ&マクレナンという上場企業の一ビジネス部門です。マーシュ&マクレナンは、リスクマネジメントや保険仲介、戦略コンサルティングなどの複数のビジネスで構成されており、そのなかでマーサーは組織・人事、退職金制度・資産運用、福利厚生・ウェルビーイングに関わるコンサルティングサービスを提供しています。日本では組織人事コンサルティングの領域であるキャリア部門のウェイトが高いですが、グローバルでは資産運用コンサルティングであるウェルス部門や福利厚生ベネフィットなどを担うヘルス部門も非常に存在感があり、各領域でグローバルトップクラスの規模を誇っています。キャリア部門では、データを扱うプロダクトソリューションチームと連携し、人事制度設計やタレントマネジメント、コーポレートガバナンス改革、役員報酬、アセスメント、M&AデューデリジェンスやPMI支援、組織開発など幅広い支援を行っています。

 

人事コンサルティング専業のファームには当社を含めて数社がありますが、規模やサービスカバレッジでは群を抜いて国内トップクラスとなっています。データサービスの約2000社の顧客基盤を生かして、豊富な組織・人事課題へのご支援実績を通じたナレッジが蓄積されていること、長く勤めるコンサルタントが多数いて、クライアントと長期の関係を構築していることも大きな強みです。

 

◇時代と共に変わってきた人事戦略と課題

―人事戦略コンサルティングの領域に長年携わられてきたかと思います。この領域のテーマはどのように変わってこられたかを教えてください。

 

 

大きく分けて2000年代から2008年のリーマンショックまで、リーマンショックから2010年代前半まで、2010年代後半から現在、という形に分かれるでしょうか。

2000年代はバブル崩壊からの経済低迷が続いていた時代で、いわゆる成果主義人事制度のブームが起きていた時期です。成果主義の是非といった議論なども盛り上がった時代でしたが、これまでブラックボックスだった人事制度を、より説明可能なものとしていくため、職務評価に基づくグレード設定、好業績者の行動特性を言語化したコンピテンシー評価基準の策定といったテーマが非常に多かったです。また、金融業界をはじめ、多くの大企業の業界再編があり、M&Aに伴う組織・人事統合などの案件も多く見られました。比較的明確なテーマやトピックがあり、1~2年程度の期間、伴走してご支援することが一般的でした。

リーマンショック後、コンサルティング市場は大きくシュリンクし、その後徐々に回復してくるのですが、この間は円高に伴う海外展開の加速や、電機業界などのように、経営危機に伴う大がかりな経営・人事改革、事業のカーブアウトなども多く発生しました。顧客企業もコンサルティングファームとの付き合い方に慣れてきて、年間予算にコンサルティング費用を織り込むような企業も増えてきました。

2010年代後半からは、大規模な人事改革案件は金融・自動車・化学など、様々な業界で引き続きニーズが拡大すると同時に、SAP SuccessFactorsやWorkdayなどのHRクラウドシステムの導入、HRアナリティクス、働き方改革の推進、人事部門改革といったより幅広いテーマへの広がりがあり、BIG4のHRコンサルティングユニットも、特にデジタル領域を中心に急拡大してきました。世の中の変化のスピードが極めて速く、事業戦略の賞味期限が短くなってきている中で、組織自体をアジャイルにして現場で変革を推進していくために、どのように人材を採用・配置・育成していくか、経営戦略と人材戦略をどう連動させていくかが重要になってきています。

 

―これから先、組織人事コンサルティングの領域にて出てきそうなテーマなどはどのようにお考えですか?

人的資本経営というキーワードが話題になっていますが、この考え方自体はもちろん重要ではあるものの、人事の世界ではさほど目新しい概念ではありません。その中で、世界的に高まる人的資本開示への要請は、長期的に見て、資本市場だけでなく労働市場のプレッシャーを通じて、企業経営・人事へのインパクトがあると考えています。

現時点では多くの企業ではマネージャーの男女比率やエンゲージメントスコアなど一般的なKPIの開示に留まっていますが、今後は機関投資家などからのプレッシャーなどを通じてより多様な情報開示が求められていきます。長期的に見てデータが蓄積されてくると、他社比較や経年比較などが可能となります。これらに加え、近年普及してきている口コミサイトなどのプラットフォームなどと相まって、これまで「入社しないと実際の所はわからない」という情報の非対称性が高いものであった人事情報の非対称性が下がっていき、人材が集まる会社、離れる会社の優勝劣敗が加速していくでしょう。現在、日本政府が旗振りして進めている労働市場改革でも、労働移動の円滑化を目指して各種規制や慣行の見直しが検討されていますが、こういった流れの中で、まさに各個人のキャリア自立・自律、自己選択が強化されていくでしょう。ちょうど御社(インフォエックス社)がミッションとされているテーマともつながっていますね。(笑)

そういう意味では現代は大きなターニングポイントだと思いますし、この変化を前向きに捉える企業や人事パーソンにとって、チャンスは広がっています。

 

◇人事領域における圧倒的な知見・ツールと豊富な人材を武器に、企業と市場の変革を支援していく

―このような外部環境がある中で、マーサーとして発揮していくValueをどの様にお考えですか?

マーサーは現時点で、日本国内だけで約2000社の企業と取引があり、加えてマーシュ&マクレナングループの他のビジネスも含めると、さらに幅広く深い顧客接点を有しています。強固な顧客基盤を活かした極めて豊富な案件フローがあるため、当社のコンサルタントはクライアントの企業価値・人材価値向上のご支援、個々人の専門性強化に向けて、生産的・効率的に仕事をする環境が整っています。マーサーは世界的に報酬データや生計費指数で有名ですが、それ以外にも人材育成のEラーニングプラットフォームや世界的なデファクトスタンダードの職務評価ツールIPEなど、クライアントに対して価値提供をする武器も豊富に有しています。長期にコミットして働く経験豊富なコンサルタントも多く、業界未経験者でも比較的早期に支援し、プロフェッショナルとして独り立ちできる環境がある点は、人事コンサルティング業界の中でもユニークなポジショニングを取れていると思っています。

 

―そのValueをもって今後注力していく領域について教えてください

我々の持つ組織人事改革におけるノウハウ・経験に対して、お客様からは少なくない対価を頂いておりますので、人材戦略・人事制度設計・タレントマネジメント・役員報酬・M&Aなど強みとする領域を引き続き磨いていくことはもちろんですが、今後は組織開発や人材開発、HRアナリティクスなどの領域にも注力していこうと考えています。
例えばジョブ型の人事制度、ジョブ型の雇用仕組みだけは構築したものの、マネージャーの意識変革とか人材育成がついていかなくて、なかなか狙った通りに変革できていないという事例は非常に多いです。ハード的な仕組みを作った次、人々の行動レベルを変えていく支援に関しては、数年前から組織開発の専門チームを立上げて強化しています。
また、これまでマーサーでは連結売上高が数千億円~1兆円以上の大手企業向けのご支援がメインでしたが、これからの経済を支えるスタートアップ・グロース企業や中堅・中小企業へも当社のノウハウを生かしたサービス提供をできるよう、いくつかの取り組みを進めています。一社当たり年間20万円程度からご提供が可能なEラーニングサービスなどはその一例ですが、すそ野を広げていきながら、様々な形で多くの企業の皆様へのご支援をしていきたいと考えています。

 

―そういったテーマに関わっていくコンサルタントの仕事の進め方を教えてください。

プロジェクトの期間は1~3 ヶ月から2 ~3 年を超えるものまで、極めて多様です。プロジェクトチームの構成は、カウンターパートの人事部門や経営企画部門の方々と一緒に、当社側は数人規模の人数で体制を組むことが多く、いちメンバーであってもクライアントとのディスカッションも含めてかなり重要な役割を早々に任せていきます。新卒入社 1 年目であっても、個人の成長次第で、クライアントミーティングでの説明、会議運営などを任されるケースはたくさんあります。大規模なシステム構築プロジェクトのようにチームが何十人もいて、ごく一部のモジュールしか任されないというような案件と違い、プロジェクトの全体像は見えやすく、分析や資料作成などコンサルベーシックのタスクを身につけつつ、クライアント向けのコミュニケーション、ポイントオブビューを考えていくことなど、コンサルタントとしてクライアントと向き合う機会が多いのが特徴ですね。
キャリアとしては、我々のファームの内に豊富な成長・登用機会があり、他ファームと比べても社内でキャリアアップする人材が多いと思いますが、OBやOGで言うと、事業会社のCHRO、HRリーダーやHR以外のCXOとして活躍している方々もたくさんいます。若手の中には、人事コンサルティング領域の経験を数年間しっかり積んだのちに、金融や戦略ファームなど他領域のプロフェッショナル・サービスに転じるケースもあり、非常に幅広いキャリアの先があります。
マーサーでのプロジェクトは、数値分析やドキュメント作成、クライアントコミュニケーションなどのコンサルティングワークをバランスよく経験できるので、企画系業務や別のコンサルティングワークでも重宝されるスキルが身に着くと思います。

 

 

―コンサルタントを採用する上で、どのような方を求めていますか?

キャリアステージにもよりますが、総じて現時点のスキルや経験よりも、バリューや人物面、入社後の成長のポテンシャルを重視しています。例えば、現在社内で活躍するあるコンサルタントは、前職が少しニッチな業界で、年齢的にも30代だったため、他の大手総合系ファームなどは軒並み書類選考を通過できなかったそうです。しかしマーサーでは、ユニークな経歴の人材への関心・好奇心も強いので、実際にお会いしたところ、ポテンシャルが十分にあると判断して、ご入社いただきました。現在は社内の重要な戦力として活躍してくれています。人事の仕事をしているので当然のことですが、人材を見極めること育てていくことに対しては自信がありますので、外形的な経歴だけでなく、ポテンシャルや人柄を重視した採用をしています。結果として、大手企業や他ファーム経験者だけでなく、ベンチャー企業や官公庁など、職歴も非常に幅があるのが特徴です。外国籍のコンサルタントも、中国、韓国、インド出身など多数在籍しています。

 

―特に求める資質としては、どのようなものがありますか?

いわゆる地頭の良さや対人コミュニケーション力などはもちろん大切ですが、一番大事なのは「好奇心」だと思います。コンサルタントに限らず、これからのあらゆるビジネスパーソンにとってラーニングアジリティ、すなわち新しい事柄への学習能力は大変重要ですが、その根幹に好奇心、様々な事柄への知的関心がどれだけあるかが、長い目で見た時に大きな差につながります。
もうひとつはカルチャーフィット、特に他者との協働・協力関係を自然と築ける方かどうかという点は重視しています。プロフェッショナル・サービス・ファームとして組織の集合知を活かしていくには、過度に自己主張が激しく他者を排除するようなタイプの方では、うまくいきません。当社には、何か困ったことや知りたいことがある時、誰でも気軽に相談し、インプットしあうカルチャーがあります。他ファームから入社された方は、チーム間の垣根の低さ、風通しの良さに驚かれる方も少なくありません。そういったカルチャーを大事にしていますし、引き続き重視していきたいと考えています。

 

 

―ちなみに、銀行に入られてから20年後の今のように、日本の企業の人事をどう変えていくかという話をしている自身を想像されていましたか?

社会人2年目の時、自分の仕事は自分で決めようと思ってマーサーにジョインした私にとって、いまの仕事はある意味で、その時から目指していたことの延長とも言えます。
実際には多くの偶然の出会いの中で今日に至る側面も多分にありますが、常に目指してきたことの根っことして、キャリア自律の実現は、私にとって空気を吸うように自然なことであり、今日の日本社会でも、個人が主体的にキャリアを構築していく世界をぜひ実現していきたいと考えています。もちろん自社の中でも、キャリア自律・個人の成長は、あらゆる社内の人事ポリシーの根幹です。

いま日本の労働市場・労働慣行は大きな転換点にあり、膨大な変革ニーズがありますが、マーサーはそういった転換を後押しする上で絶好のポジションにいます。「あらゆる個人のキャリアの可能性を広げるサポートをしていきたい」、「より良い組織をたくさん生み出すお手伝いをしたい」といったような、人と組織に強い興味をお持ちの方は、是非門戸をたたいてほしいと思います。

 

―熱いメッセージをありがとうございました。