PwCサステナビリティ/PwC Japan サステナビリティ部門インタビュー

今回はPwCサステナビリティ合同会社(以下、PwCサステナビリティ)のサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス(以下、サステナビリティCoE)のリード・パートナーである磯貝 友紀様とPwC Japan有限責任監査法人(旧:PwCあらた有限責任監査法人)のパートナーでサステナビリティ・アドバイザリー部リーダーの田原 英俊様にお話を伺ってきました。


左: PwC Japan有限責任監査法人/パートナー サステナビリティ・アドバイザリー部リーダー 田原 英俊様
右:PwCサステナビリティ合同会社/サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス/リード・パートナー 磯貝 友紀様

 

ご経歴紹介

 

・磯貝 友紀様

2003年より、民間企業や政府機関にて、東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手掛ける。

2008年より世界銀行アフリカ局にて民間部門開発専門官として、東アフリカを中心に民間部門開発、官民連携プロジェクトなどを手掛ける。
2011年より現職、サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリード・パートナーとして、日本企業のサステナビリティビジョン・戦略策定、サステナビリティ・ビジネス・トランスフォーメーションの推進、サステナビリティリスク管理の仕組み構築、途上国における社会課題解決型ビジネス支援やサステナブル投融資支援を実施。業種別協会などと協働の取り組みとして、第二種金融商品取引業協会のSDGs推進ワーキンググループに副座長で参画するなど、同協会の当該領域検討を推進。

著書
SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営(共著 2021年 日経BP)

 

・田原 英俊様

2000年より自動車メーカーにおいて環境担当として9年間にわたり、環境戦略立案と実行、環境マネジメント、環境コミュニケーション、環境情報開示、環境・エネルギー領域の長期動向予測調査、自動車燃料のライフサイクルGHGアカウンティング、コーポレート生態系サービス評価に従事。

2011年よりPwCあらた監査法人(当時)にて自動車、重工業、通信、化学、食品・飲料、製薬、航空など幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案、情報開示、格付けなどのコンサルティングを担当。企業の中長期的な社会環境課題における重要課題の特定とそれに基づくKPIの策定、グローバルなサステナビリティ評価(格付けなど)を活用したマネジメントや情報開示向上支援や、グローバルな投資家・NGO・情報開示基準策定機関などとのステークホルダーエンゲージメント支援に数多く携わっている。

サステナビリティ日本フォーラム評議員、日本公認会計士協会企業情報開示専門委員会委員を歴任。

 

 

サステナブル経営実現に向けて、「戦略」「トランスフォーメーション」「レポーティング」と包括的な支援を実行

組織の全体像について教えてください。

 

磯貝様
私は2011年に入社し、現在はサステナビリティCoEのリード・パートナーを務めています。この組織は2020年の7月よりPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)全体のマネージングパートナーに直接レポートする新たなバーチャル組織として立ち上がり、現在は約85名の組織となっています。
それぞれのサービスラインに対し、サステナビリティの専門部隊として、横串をさしてサービスを提供しています。そのミッションは「R&D」・「社内のアップスキリング」・「マーケティング業務」・「エッジの効いたプロジェクトの創出」の4つとなっています。最初の3つについてはコストセンターとして、最後の1つはプロフィットセンターとしての役割を担っています。
PwC Japan全体で提供しているサステナビリティサービスとしては戦略・トランスフォーメーション・レポーティングの3つに分かれていますが、CoEでは主に「戦略→トランスフォーメーション」部分を担当しています。

 

田原様
私も2011年に入社し、現在はPwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)のパートナーとして、サステナビリティ・アドバイザリー部リードを任されています。この組織は戦略・トランスフォーメーション・レポーティングのうち、レポーティングそのものにかかるアドバイザリー業務のほか、「レポーティング→トランスフォーメーション」部分を担当しており、現在は約60名の組織となっています。監査法人ですので、アドバイザリー業務に加えて、企業の非財務情報に対して確からしいとする保証業務も行っていることが特徴となっています。
いずれのプロジェクトにおいてもPwCコンサルティング合同会社やPwCアドバイザリー合同会社、PwC税理士法人などと連携し、PwC Japan全体でクライアントの価値向上に取り組んでいます。

 

 

日本ビジネス全体におけるサステナビリティ領域の変化について教えてください。

 

磯貝様
コロナ禍直前にあたる約3年前、PwC Japanが今後投資を拡大していくサステナビリティ領域のためにサステナビリティCoEが発足されました。2020年10月、当時の政権がネットゼロコミットメントを発表したこともあり、2021年4月頃から爆発的に日本のこの領域の市場も拡大したように感じます。そこで、この市場の拡大に伴い、私たちは2022年11月に「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム(以下、ESフォーラム)」を立ち上げ、サステナビリティ経営に積極的に取り組む企業の経営者と意見交換の場を設けるなどしてサービスの幅も拡大してきています。

 

田原様
特にサステナビリティという領域において脱炭素や気候変動など特定のテーマでの話し合いが活発に行われますが、そうではなくより全体を俯瞰したホリスティックなアプローチが必要になると考えています。これは全てのテーマはどこかで必ずリンクしてるからです。そもそもそのテーマや課題が社会全体の中でどういった位置づけで、どういうつながりがあって自分たちのビジネスと掛け合わせる必要があるのか。このような包括的な考えのもとで経営を行う必要があり、現在ではそのような考え方のもと、会社経営を推進する企業も増えてきていると思います。

 

 

一方で、ESGファンドが相次いで閉鎖するなどサステナビリティに対して懐疑的な潮流も生まれています。世界規模で考えたとき、この潮流はどのように変化していくと考えられますか。

 

磯貝様
サステナビリティの領域は中長期的に変化していくもののため、短期的な取り組みの成果が見えにくいものではあります。ただ、経済活動を変えなければ、時間をかけて確実に悪化していくものです。もちろんウクライナ紛争などのような短期的な変化も起こりますが、だからと言ってこの構造そのものが変化するわけではありません。つまり経営者は突発的なインシデントに対応しつつも、長期的な構造変化を見越して戦略をたてていくことが求められると思います。

 

田原様
過去20~30年の変化を見ると、反動による揺り戻しはありつつも、着実にサステナビリティのある社会に変わってきています。気候変動問題に対する社会の関心も高まり、企業の行動や規制にも影響を与えています。大まかな動きを予測することはある程度可能であるため、1、2年単位の細かな動きではなく、社会全体としてどのような変化が起こっているかを把握することが重要であると考えています。つまり、一時的なブームで終わらせるのではなく、社会全体を捉えたときに右肩上がりで変化していくことが望ましいと思います。

 

 

欧米諸国と日本とでサステナビリティへの取り組みの違いがあれば教えてください。

 

磯貝様
あくまで個人的な考えですが、欧米諸国と日本では考え方の違いがあるように感じています。「地球がもたない」という課題意識から、長い期間を掛けてサステナビリティ経営を浸透させるビジネスルールを作ってきた欧州と欧州各企業。その欧州の流れを受けて、法定開示に伴うデータ収集などを急速に進めると同時に、せっかくなら収集したデータを活用し、お金になるビジネスを生み出そうという意思決定につなげてきた米国企業。一方の日本はというと、もともとデータドリブン経営に課題が残るということもあり、法定開示のデータは法定開示のためのデータでしかなく、そのデータを活用して新たな戦略を生み出そうという議論がまだあまり行われていないように感じています。

 

田原様
欧州諸国は、そもそもの長期的な社会のあるべき姿というビジョンのもと、そのビジョンに向かうために、それぞれの企業やプレイヤーがどのような役割を果たすべきかを定義し、その役割を遂行するということで社会の構造そのものを変革してきたことがあると思います。日本はそもそも長期的なビジョンが明確にないケースが多いため、サステナブルな経営という面でやや遅れをとっているのではと思います。加えて、「社会善は奉仕の心で行うべきで、それでお金を稼ぐことは良くない」という考えが根底にあることも影響しているように感じます。良いことをして稼ぐことは決して悪いことではなく、むしろ会社経営や社会全体の構造を踏まえると必要なことであるという啓発活動も今後必要になると思います。

 

 

実際にクライアントが抱えている課題としてはどのようなものがあるのでしょうか。

 

磯貝様
課題としては非常に多岐にわたると思います。実際に私が関わっている案件ですと、貧しい人たちが生活を豊かな方向に向上すると同時に環境も守っていく、この両立を図っていく仕組みつくりを行う案件が多いように感じます。例えば特にASEAN諸国を中心とした新興国の成長は、サプライチェーンの観点でも関係が深い日本企業としても重要である一方、サステナビリティを考慮しなければ確実に資源が不足していくことになるため、いかに環境を維持しながら経済成長を成し遂げるかが非常に重要な課題です。

 

田原様
確かに課題としては多岐にわたりますが、根底に流れているものは同じであると思います。私が主に担当しているのはレポーティングですが、開示項目として何が義務で何が義務ではないのか、というような法定開示にかかるご支援が多いように感じます。

 

 

上記のような課題解決に向けて、御社ではどのようなアプローチを行っているのでしょうか。

 

磯貝様
さまざまなアプローチがあるうちの1つとして、私たちはSustainability Value Visualizerというサステナビリティ経営における企業活動のインパクトを可視化するサービスを展開しています。現在のサステナビリティアプローチに対する課題としては2つが挙げられます。長期的な目線で将来財務につながるアクションを取れていないという課題と、社会的な要素によって「未来の稼ぎ」と関係のないところにお金が流れるという課題です。こうした課題に対し、Sustainability Value Visualizerはサステナビリティ活動が及ぼす影響・価値を測定し、効果的なサステナビリティ戦略の策定とKPIの設定を達成するために有効です。
また、冒頭でお話しした「ESフォーラム」では、日本やアジアのサステナビリティ動向について、現地の大企業やスタートアップ企業などの情報も含めて調査を行い、それらを基に持続可能なビジネスの在り方について、経営者と定期的な議論を行ない、社会に向けて提言などを発信しています。
私たちは足元のビジネスを確実に行いつつも、常に一歩先を見据えた次の戦略を考えています。

 

部門を超えた密な連携を武器に、本気でサステナビリティに向き合っていく

他のコンサルティングファームとの違いについて教えてください。

 

田原様
まだサステナビリティにスポットが当たっていない時代から、本気でサステナビリティ戦略支援に取り組んできたため、それは当社の強みだと思います。監査法人という観点でいくと、競合という立場ではありつつも一緒にやっていくべき領域と、差別化すべき領域があると思います。具体的には信頼を付与する「監査/保証」という面ではともにスキルを高めていく必要がありますし、アドバイザリーという観点では差別化されている、もしくは差別化していくべき領域だと思っています。

 

磯貝様
加えて、部門や法人を超えたPwC Japan間での連携も強みだと考えています。他社ファームから転職してきた方の話で、PwCは部門間の垣根が非常に低いという話も実際に聞いています。どうしてもエンティティが異なると、別会社くらいの壁が存在してしまうのですが、PwCでは同じ会社の別部門という程度の位置づけでしかありません。コンテンツで横につながっているイメージが強く、全社で推進しているxLoS(クロスロス、Cross Line of Services)がしっかりと実行されている証だと思います。
また、戦略ファームとして考えた時、私たちはさまざまな角度からアプローチが可能なため、どこでもマネタイズが実現できる点が他ファームとの差別化ポイントになっていると思います。いずれにしてもサステナビリティという領域で強い地位を築いていると自負しています。

 

田原様
xLoSの話に付随して、連携が強固な分、入社後に他の分野に挑戦しやすい環境もあると思います。基本的には受け入れ側の承認が下りれば、異動が実現する制度となっていますので、個人が望むキャリアの形成もしやすいと思います。

 

 

実際に入社した際の業務内容としてはどのようなことが想定されますか。

 

磯貝様
サステナビリティCoEでは、基本的にはプロジェクトに参画していただくこととなりますが、他の業務にも関わっていただきます。割合としてはプロジェクト6割、残りの4割がR&Dやマーケティング、社内のアップスキリングというイメージです。前者のプロジェクトは非常にエッジの効いたものが多く、後者は当社サービスを通じて新しいビジネス創出につなげていくようなものになります。もちろんPwCコンサルティング合同会社をはじめとしたグループ間の協業も行いますが、「サステナビリティで収益を生み出す」ということをひたすら考え続けている特殊な部門がサステナビリティCoEであると思います。そのため、サステナビリティの新たな案件創出に向けた積極的な提案を行い、他の部門を巻き込んでプロジェクト化していく動きもしています。

 

 

これまでの内容を踏まえて、どのような方にご入社していただきたいですか。

 

磯貝様
1番はミッションに共感いただける方にご入社していただきたいです。ただ、コンサルティングビジネスで社会を変えていくためには、論理的思考力をはじめとしたコンサルティングスキルがどうしても必要となります。コンサルティングスキルとミッションへの共感、この両方を併せ持つ方には、ぜひご入社いただきたいと考えています。

 

田原様
監査法人においてもサステナビリティへの情熱は重要視したいと考えています。加えて、人の話をしっかりと理解できる傾聴力を持っていることも重要だと思います。コンサルティングスキルが何かを追求すると、相手の話をしっかりと聞いて、ニーズを正確に汲み取る力に行き着くと考えています。
コンサルティング経験がある方に限らず、私たちのミッションに共感し、本気でサステナビリティに向き合っていきたい方にはぜひ門戸をたたいてほしいと思っています。