デロイトトーマツベンチャーサポート

 

今回は、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社(以下:「DTVS」) 斎藤社長に、DTVSの歴史やカルチャー、現状の課題や今後の展望などをお伺いすることができました。

デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 代表取締役社長/斎藤 祐馬様

2010年よりトーマツ ベンチャーサポート株式会社(現 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)の事業立ち上げに参画。
2019年デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長。公認会計士。
世界中の大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案まで手掛けている。起業家が大企業100人にプレゼンを行う早朝イベントMorning Pitch発起人。
主な著書は『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)。新聞・雑誌・テレビ・オンラインメディア等、メディア掲載多数。「2017年 日経ビジネス 次代を創る100人」に選出。

 

デロイトという大手企業の中で、築き上げられた社内ベンチャーDTVSの歩み

――現DTVSの前身となるトーマツベンチャーサポートが立ち上がった際の状況は、今振り返るとどんな感じでしたか。

私がデロイトに入社したのが2006年で、普通に業務を行いながらも夜とか土日とかにベンチャー支援の仕事を始めて、2010年に弊社を立ち上げました。当時はスタートアップという言葉はなかった時代で、「ベンチャー=怪しい」と言われる時代でした。当初は会計士だけの監査法人の中で始めた組織だったので、スタートアップを手掛けるは人間おりませでした。「ベンチャー支援を一緒にやろう!」と言ってもほとんど一緒にやってくれる人間はいませんでした。5人くらいまでは社内で口説きながら集めて、それ以降は社外から集めました。そこからは比較的売上が上がってから採用を拡大できるようになりました。

 

――徐々に売上が伸びていく中で、どういった壁にぶつかりましたか。

まずはメンバーを集めるところで非常に苦労をしました。当時よく言われたのは、「会計士を捨てるのか?」というワード。当初は監査の仕事をしながらベンチャー支援の仕事もしていたので、人を引っ張ってくることに対して本当に苦労しました。夜などに少し手伝ってくれる人はいたのですが、本気で従事してくれる人を集めるのに苦労しました。「辞める前に1年やってみないか?」といった形で声をかけていた時期です。そしてもう一つ苦労したのが、売上を作ることです。売上が立たないと人を増やせないので、その当時シリコンバレーに行って勉強し、ベンチャー支援のヒントになるビジネスモデルを沢山学びました。Googleがユーザーからお金を取らずとも儲かっている話や、弁護士事務所が、はじめはあまりお金をもらわずに徐々に儲けるビジネスモデルである話などを知り、弊社もそこから始めてみました。初めはビジネスモデルを作ることに苦労しました。しかも、このビジネスモデルは儲かり続けるビジネスではないので、事業計画を2014年から作り始めました。当時は5年間毎年億単位の資本をもらい、事業計画書を約120回書き直しました。その当時の役員20~30人全員に何度も説明しました。2018年くらいからは黒字化して、利益率も改善し採用活動も積極的に行えるようになりました。

 

――ベンチャービジネスに対して日本企業が投資する流れが生まれたのが2010年代の後半くらいからだと思います。DTVS今のビジネスモデルのコアはどのように作られてきたのですか。

事業の立ち上がりの順番でいくと、政府系の案件がまず初めで、大企業向けのコンサルティング、スタートアップ向けのファイナンシャルアドバイザリーサービスやM&A支援の流れ。さらに今、新しい課金のWEBサービスですね。これが収益化してきている形です。

 

――――7年間赤字を出し続ける新規事業。事業を育てるうえで組織からの圧力も相当あったかとは思います。それでも続けてこられた理由はどんなことでしたか。

会社のカルチャーもあるかと思います。デロイトの経営陣がその時に理解を示してくれて、育てていただいたということが大きいですね。あとは、メディアのへの露出が大きかったです。モーニングピッチも反響が大きく、外の方から支援が大きかったです。収益的なところはまだまだでしたが、外部の期待や様々な方々からのサポートがあったので今のDTVSがあります。今のCEOはベンチャーサポートの役員出身ですし、今のCXOもベンチャーサポ―ト出身。デロイトの幹部は、ベンチャーサポートに関わったことがある者が多いですね。ベンチャーに関わって挑戦者を支援してきた者が経営層におり、意思を持って挑戦する人材を応援するのがデロイトの一つのカルチャーかと思います。

 

 

グローバルベンチャーの当事者として、起業家たちの創出・支援に挑む

――御社はべンチャ―ビジネスや大手企業の新規事業創造、脱炭素などのニュービジネスなど、数多くのビジネス領域にアプローチをしています。社会的なビジョン、クライアント側からの要請はどういったものがありますか。

日本全体のGDPが増えなくとも伸びている産業の比率が増えると、給与や幸福度が上がっていくと思います。その方法として、スタートアップの時価総額が大幅に伸びていくのもそうですし、大企業発の社内スタートアップが立ち上がることも大事です。クライアントのニーズもまさに、次の柱となる事業を作りたいといった声が大きいです。特に大手企業の場合、企画だけをコンサルティング会社へ頼んで、実行部隊がいなくて困っている企業が多いです。

 

DTVSは企画から実施でき、海外からのスタートアップも紹介できて、実際に実行まで一気通貫でできることが強みです。いろいろなファームはあれど、大企業で社内ベンチャーや社内新規事業をグローバル含めてやりきった会社は、弊社以外にあまり見たことがありません。大企業で新規事業が起こりにくいのは、何か技術がないとか攻めるべき領域がわからないとかではなく、実際にやるときにどういう仕組みでやるかとか、社内でどういうプロセスを踏んでやるかがわからないからです。これを、身をもって体現しているのは、DTVSだけだと自負しております。そこに一番ニーズがあり、日本で一番足りないと思うんです。社内でビジネスを起こして実際にやっていないと、そのアドバイスは聞いてもらえない。実際に自分でやっているからこそ説得力が生まれるんだと思います。僕もいろいろやってきましたが、10年くらいやらないとこのベンチャーのビジネスモデルは難しいと思います。

大手企業の社内ベンチャーの話をしましたが、スタートアップ企業個別支援ももちろん行っております。相当な数を行っております。例えば、Morning Pitchだけでなく、毎週4社ベンチャー企業に来ていただいて、投資とメディアのゲストと一緒に15分を4回転、相談会みたいなことも行っております。資金調達支援やM&A、ビジネスモデル作りなどいろんな形でスタートアップ支援をしています。

 

――起業家を増やしていく中で、大企業の中にある抵抗勢力が問題だと思っております。新しいことを始めようとすると社内から否定される大企業の文化を、御社はどのように解決・支援しておりますか。

意思決定が進むのが難しい中で、他社の状況をその会社に知らせるということを行っています。DTVSの持つ圧倒的な情報を大企業に提案することで、その企業が意思決定しやすくなります。それを見せることで、大手企業の幹部も納得するようになります。「他がやってるなら、うちもやろうかな」といった状況を作ることが大事です。そこにDTVSが入ることが強みです。それをやれるのはうち以外にはないと思います。こういうことをしていかないと、この日本の体制は変わらないと思います。

 

――御社は、経営再生支援企業のように一歩踏み込んだ経営支援などは行っておりますでしょうか。

実際にやってます。4人ほど半常駐みたいな形で大企業に送りこんで、飲料系新規事業を立ち上げたりもしています。これもかなりの売上になってます。事業の立ち上げ経験を積めるようなプロジェクトを用意しております。

 

――今の情勢で、新規事業でホットなテーマは何でしょうか。

大きく3つあります。一つ目は、サステナビリティや気候変動のような、今の地球をどう保っていくか?というテーマ。二つ目は、地球は厳しいから、他の星に行こうという、宇宙のテーマ。3つ目が、WEB3などのバーチャルの世界でのビジネステーマ。この3つが大きいです。気候変動に関しては、専門でチームを立ちあげています。WEB3は事業の支援を行ったり、直近で言えば「NFTの教科書」という本が売れました。これはデロイトグループのメンバーが共著で入っています。宇宙系は“グラビティチャレンジ“といって、デロイトで宇宙に関するアクセラレーションプログラムを仕掛けております。

 

――政策を推進する国側の要請には何がありますでしょうか。

国側としては、スタートアップ担当大臣が出来て、これからスタートアップについて様々な政策が打たれる予定です。その様々な政策の立案や実行に我々も関わらせて頂いております。これからの5か年計画については我々も実行面でも貢献してまいりたいと考えている。当初47都道府県全部でベンチャーサミットを行っていたんですよ。結果的に、各自治体から様々な仕事をご一緒いただけるようになりました。

 

――国側から見たベンチャー支援に関する課題にはどんなことがありますか。

3つあるかと思っております。一つ目は、そもそも起業を目指す人、スタートアップの競技人口が圧倒的に少ない問題です。北欧では小中高一貫の起業教育が導入されていて、フィンランドでは4割の人が起業を志向しております。一方、日本で起業を志向する人は8%程度。国や地域によって全然違います。これは教育の違いです。ここを変えないといけないです。起業に興味ある人間の数が圧倒的に少ないです。スタートアップの競技人口が少ない一方で、大企業の中での新規事業創出も大事になってきます。ここの部分も大事にしないと競技人口は増えていきません。また、2代目3代目社長が承継した老舗企業の成長。この人たちは基本的には借入融資を受けた既存ビジネスの運営中心になってしまっておりますが、彼らが、株でお金を集めてスタートアップ的に成長していくことが重要です。

二つ目は、資金が流れる総量を増やすこと。国の予算から1%でもベンチャーに流れる仕組みを作ることや海外からの投資を呼び込むことも大事です。

最後に、技術力が事業化されて世界に羽ばたく仕組みが弱いですね。実際の研究を事業にして、お金が流れるようにした方がいいです。そういったエコシステムを作るのが大事になってきます。競技人口を増やし、資金が流れる総量を増やし、技術力を事業として世界に展開させるといったベンチャー企業が増えるエコシステムを作るのが大事です。

 

――これから先、進出していきたい新しいフィールドはありますか。

大きく4つ注力ポイントがあります。一つは、インダストリーライン。各インダストリーのチームを拡大していく予定で、相当ハイレベルな産業知見×スタートアップやイノベーションを推進していくということ。これが一つ。

 

二つ目は、ファンクション。大企業が受けられるファンクションの部分とベンチャー企業が受けられるファンクションの部分には少し差があると思っております。スタートアップの受けられるファンクションの部分を強化していきます。

 

3つ目はグローバル。海外の拠点をどんどん増やしていって、メンバーの10%を海外に送るというのを方針にしております。今シリコンバレーに7人行ったりとか、シンガポールに2人いったりしています。日本国内であればどんな大企業でもある程度紹介は出来るので、世界中でどんな大企業でもどんなスタートアップでもつなげていけるようにしたいと思っております。来年の2月に、東京都主催で“City-Tech.Tokyo“という、かつてない日本初めての世界的なスタートアップイベントをやる予定です。初回は1万人で、世界中から人を集めて世界的なベンチャー企業フォーラムを行う予定で、これを我々が受託させていただいております。世界と日本を繋げられるような架け橋になっていきたいですね。

 

最後に、”コンサルテック“という概念を我々は持っていて、コンサルティングワークをAIで代替するWebサービスを作り、本当に難しい部分だけ労働集約的に人間が介入するシステムを展開しています。3つくらいはもうすでに事業化してます。今やっているのは、スタートアップとベンチャーのマッチングをほぼ自動できるというシステム。そういったところに積極的に投資しております。

 

起業家輩出のエコシステムとしてありたい

――組織が拡大していく中で、どのように斎藤社長と同じDNAを持つ人間を採用し、それをどう維持しているのですか。

そういった意味で言うと、基本3年・5年で起業する実力がつく会社をコンセプトにしております。起業家輩出企業になっていって、外で起業して成功する人も輩出したいし、社内起業のチャンスもどんどん作り、ポストもたくさん作る予定です。外に出た方にも、外部教育みたいな形でいろんな形で携わってもらいたいし、起業したスタートアップと提携したりもしております。ある種DTVSのエコシステムみたいな形で、卒業したらDTVSが支援するみたいな形をとっております。この業界は“仲間”が大事でして、「マインド」「スキル」「ネットワーク」が起業家として大事になってきます。まずは、起業するマインドを持つことが大事です。新卒も3年・5年で起業したいというマインドを持った人間を採用しておりまして、実際に卒業した人間も支援していきたいですね。マインドとして、起業家を支援しているのに、自分は一生サラリーマンですみたいなスタンスの人は合わないかもしれないです。スタートアップ精神を持った人に来て欲しいですね。

 

また、会社としては仕事だけでなく、ワークライフバランスもきちんと整えていきたいと思っております。ゴールデンウイークやシルバーウィークは10連休とれるようにしたりとか、育児休暇は基本皆さんにとってもらえるようにしています。私自身も子どもがおりますので、そういった部分は積極的に推進していきたいと思っております。他のファームに比べても、そういったところにはかなり力を入れております。僕自身が30代で経営しているので、その点は結構理解のある会社かと思っております。

 

――若い会社ということもあって、ともに事業を作り、ともに歳を重ねていける会社としてありたいのですね。貴重なお話、ありがとうございました。

 

 

【参画者】
・デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 代表取締役社長/斎藤 祐馬様
・株式会社インフォエックス 代表取締役社長/朝雄 弘士
・株式会社インフォエックス Chief Operating Officer/江口 遼
・株式会社インフォエックス コンサルタント/安田 貢志